田辺城 (舞鶴城) : 文化人 細川幽斎の籠城戦で有名な丹後の平城。

丹後 田辺城は、旧室町幕府幕臣で後に信長の家臣となった細川藤孝(幽斎)が、丹後国に入国後、居城として築城した平城。関ヶ原前哨戦の一つである田辺城籠城戦が有名。細川家は幽斎嫡男・忠興が関ヶ原で武功を挙げたことより九州へ大幅加増で転封。その後は京極家、牧野家が城主を務め、明治6年に廃城となった。遺構は都市化により失われ、本丸跡地が舞鶴公園として石垣(復元も多い)と天守台を中心として整備されている。なお細川氏時代の田辺城は一国一城令で一度破棄されており (宮津城が藩庁)、現在の遺構は田辺城が改修された初代田辺藩主 京極高三 期 以降のものとされる。別名の「舞鶴城」は「まいづるじょう」ではなく「ぶがくじょう」。この別名が元となって現在の地名「舞鶴 (まいづる)」が生まれた。

<基本データ>
●名称: 田辺城 [舞鶴城] (Wikipedia)
●所在: 京都府舞鶴市 (地図)
●築城: 1580年 (天正八年)
●城主: 細川幽斎・細川忠興
●分類: 石垣、天守台、移築門など
●関連: 舞鶴観光協会田辺城籠城戦記


<訪問記>

tanabe01-sJR舞鶴線 西舞鶴駅から北へ徒歩10分。「二の丸」交差点の北側に立派な櫓門が見えてくる。ここは舞鶴公園となっていて、城内に田辺城跡、資料館などがある。園内の建物はとてもそれっぽいが、残念ながらすべて模擬建造物。

tanabe02-s櫓門の北隣には二層櫓や堀も建造されている。こちらもすべて模擬。櫓門は歴史博物館、二層櫓は文化資料館となっているようだ。

tanabe03-s櫓門の前に建っている「田辺城城門」説明板。元々 文字は黒く塗ってあったようだが、インクがほぼ落ちてしまっているため読みづらい。鉄板に彫り込んであるので完全に消滅はしていないのが救いか。説明によると、現在の舞鶴公園の敷地がほぼ本丸だった模様。天守の存在は確認されておらず、5つの城門が田辺城を象徴する建造物だという。なおこの門は大手門などの復元ではなく、櫓門の形をした「(模擬) 城門」という位置づけになっている。

tanabe04-s舞鶴公園内 案内図。右端が城門(現在地)。城に関する遺跡や展示等は公園のほぼ北側半分ほどのようだ。

tanabe05-s田辺城址 説明板。築城したのは細川藤孝(幽斎)、ガラシャの夫・細川忠興の父だ。有名なエピソードとしては、関ヶ原前哨戦で西軍15000を相手に寡兵で籠城中、古今和歌集の秘事口伝(「古今伝授」)の継承者だった幽斎の戦死により秘伝が失われることを恐れた後陽成天皇が勅命を出し、戦いは終結したというもの。その後、京極氏、牧野氏が城主となり明治を迎える。公園内には築城当時の天守台をはじめ本丸・二の丸石垣などの遺構が残る、と記載されている。

tanabe06-s田辺城城郭復元図。現在の地図と当時の縄張りを比較し易いよう重ねてあるが、ちょっと見づらい。堀は内側から本丸堀、内堀、外堀と3重になっており、現在の模擬城門は本丸堀の上に建っているようだ。

tanabe08-s城門を内側から。城門の櫓部分(2F)は歴史資料館になっている(入場無料)。

tanabe07-s城門の北隣にある二層櫓。彰古館(しょうこかん)という名の文化財展示館になっている。なんと昭和15年(1940)建造。これはこれでもう文化財と言っても良い。

tanabe09-s城門内の歴史博物館へ。築城主の細川幽斎公が迎えてくれる。田辺城の歴史に関するパネル展示や、城主家に伝わる品々が展示されている。なかなか見応え・読み応えあり。

tanabe10-s天皇の勅命により戦争が集結した田辺籠城(田辺城の戦い)に関するパネル。わかりやすく説明してある。戦いには敗れた幽斎だが、結果的に西軍の大軍を田辺に釘付けにし、3日後に勃発した関ヶ原本戦に参戦させなかったという功があり、家康も戦後これを賛辞を呈している。

tanabe11-s展示されている甲冑その1。明治まで200年 田辺藩を治めた牧野家の家臣が所有していた江戸初期の甲冑「黒漆塗 縦矧 五枚胴具足(こくしつぬり たてはぎ ごまいどうぐそく)」。兜と胴には強度を確かめるために火縄銃で撃たせた跡が残る(ぼこっと凹んでいる)。着たまま撃たれたのだろうか…

tanabe12-s展示されている甲冑その2。江戸時代の六枚胴具足「黒漆塗 銀覆輪 紺絲威 六枚胴具足」。n枚胴とは胴の部分を分解するとn枚に分かれるという意味。蝶番(ちょうつがい)でそれぞれが繋がっており持ち運び時・収納時はバラしてコンパクトになったという。紺絲威(こんいとおどし) は、草摺(くさずり=太腿を守る部分)を紺の糸で繋いであるもの。銀覆輪(ぎんふくりん) は兜の周囲を銀で覆ったもの。黒漆塗(くろうるしぬり) は、全体を黒いウルシで塗ってツヤツヤに仕上げているもの。当世具足(=戦国時代の甲冑)の名前はまるで暗号だが、要素ごとに分解するとそれぞれの特徴を繋げたネーミングになっていることが分かる。理解とは分解なり。

tanabe13-s博物館を出る。二層櫓の東側には復元された本丸井戸跡がある。説明板によると、背後の本丸石垣の半円形のくぼみを調査したところ細川家時代の井戸跡が見つかったためここに復元。井戸跡の上から区画の礎石が見つかったことから埋めて屋敷を建てた模様。

tanabe14-s土居跡。土居=土塁、防御用の盛土のこと。

tanabe15-s田辺城の戦いにおける細川幽斎の「古今伝授」に関する石碑。塚の上の古い石碑のあるところ周辺で古今伝授の秘伝書を渡したという。

tanabe16-s「舞鶴百撰」として公園内だけでなく舞鶴の街のあちこちに建てられている説明板の1つ。古今伝授の石碑の前にはその説明がある。

tanabe30-s近くには、細川幽斎が秘伝書を渡す際に詠んだという歌碑が建っている。「古(いにしえ)も今もかわらぬ世の中に 心のたねを のこす ことの葉」。悠久の時を超えて和歌は心の種を残すものだ、私の歌と心もそのように残っていけば有り難い、というような意味合いとのこと。

tanabe17-s本丸石垣跡。二層櫓から東に向かって積まれている。説明板等がなくどこからどこまでが復元?遺構?なのかが分からないが、図面によるとまさにここに本丸石垣があったようである。

tanabe18-s城門の南側に残る天守台跡へ。天守台説明板は、城門のそれと同じくインクが消えてしまって読みづらいが、発掘により分かったことや当時の図面(時代ごと)が描かれているので興味深く読める。これは天守台”東側”の石垣で、当時は南北31m、東西21mあったようだ。石の積み方(野面積み)であることから、細川家時代の構築物であると推定されている。また胴木が見つかり天守台の周りは水堀であったことも判明したとのこと。なお図面によると細川時代は天守台が水堀に囲まれ独立していたようだが、京極・牧野時代になると本丸石垣と連結されていたようだ。

tanabe19-s天守台 全景。こういう形なのではなく、東側のみが現存しているとのこと。見えている面が外側。

tanabe20-s丸いままの石材や隙間埋め用の細かい石を積み上げた野面積み。

tanabe31-s角は大きな石材で算木積みになっている。

tanabe21-s天守台の上にも登ることが出来る。

tanabe22-s天守台の裏側の石積み。こちらは削れてしまった天守台の端に新たに石積みしなおしたものと思われる。

tanabe23-s公園外にもいくつか田辺城の移築門などが残っているという。城跡公園のすぐ西側にある明倫小学校は、牧野氏時代の藩校「明倫館」跡で、写真の校門は当時の現存という。門扉を柱に固定する乳金物 (ちちかなもの=丸い釘隠し) や八双 (はっそう=ハサミのような形の金具) の錆加減に歴史を感じる。看板の文字も完全に消えてしまって見えない。

tanabe24-s田辺城跡から西へ1kmほど先の愛宕山麓に、2つの移築城門が残るという。1つ目は見海寺の山門。

tanabe25-sこちらが見海寺(けんかいじ) 山門。ぱっと見、あまり城門という感じはしない普通の山門と化している。

tanabe26-s山門を入ったところにある舞鶴百撰 説明板。田辺城内のどの門を移築したものかは分からないようで、しかも言い伝えとのことなので調査により移築の物証が出たわけでもなさそうだ。いわゆる「伝 移築門」だ。

tanabe27-s見海寺 山門の切妻屋根の懸魚。細かい装飾がされており城門としての貫禄を感じ…ないこともない。あまり感動のないまま、次の移築門へ。

tanabe28-s2つ目の移築門、瑞光寺 山門。先ほどの見海寺 山門より大きく立派な印象。田辺城 黒金門の移築とのこと。他の遺構付近にはあった舞鶴百撰 説明板が見当たらなかったが、以前はあったようだ。瑞光寺は細川幽斎が創建し、京都から呼び寄せた楠木正成の末裔・明誓上人(楠源吾)が建立した。田辺城籠城戦の際は幽斎の軍に加わったという。屋根の上には細川家の家紋である九曜紋が施されている。

tanabe29-s瑞光寺 山門 裏側。表の太い鏡柱と裏の細い控柱が切妻屋根を支える「薬医門」形式。

信長、光秀、秀吉、そして家康と時の天下人とその後の歴史に少なからず影響を与えた戦国大名 細川氏。その丹後時代の居城であった田辺城は、都市化に伴い殆どの遺構が失われてしまった。とは言え美しく整備された城跡公園や資料館など、見どころは多少ながらある。丹後城めぐりのお供にオススメ。

訪問時期:2013年10月
撮影機器:SONY NEX-C3
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